下水道の老朽化への対抗ー新技術の活用ー

 
インフラの資本不足問題。
最も重要な「水」にも、少しずつそのしわ寄せが来ています。
 
近年世界の下水道事業では人手不足と財政難からの脱却、そして作業員の安全性の確保という観点から、ドローンやロボットが活用されています。
 
本記事ではロボットやドローンの活用について、具体的な事例を見ていきます。
(前回の「下水道の老朽化への対抗ー資本不足問題ー」も前提知識としてぜひご覧ください)

もくじ 下水道業界の問題点 ①クモ型ロボット「SPD1」 ②球体型ドローン「ELIOS2」

 

下水道業界の問題点

老朽化している下水管の点検はいま特に必要とされている一方、点検作業員の安全性にも問題が発生しています。具体的には、人体に有害な硫化水素の発生やゲリラ豪雨等による下水道の氾濫といった問題があり、実際に死亡者も出るほどの危険があるのです。
点検時の危険をなるべく排除し、コスト自体も減らすという意味で、ロボット等の開発が急がれているのがこの下水道業界です。
ロボットやドローンの活用について、具体的な事例をご紹介します。
 

①クモ型ロボット「SPD1」

テムザック(京都市)は2022年11月8日、下水道点検を支援するロボットのプロトタイプ「SPD1」を開発したと発表しています。
SPD1は8本の脚を備える多脚歩行式の「クモ型ロボット」(同社)で、車輪はありません。。実地の下水管では途中で管径が変わる場合があり、そのような場所も通過しやすいように、8つの脚のうち外側の脚の開き具合を変えて、管径によらず安定的な歩行ができるような工夫がされています。
 
また、汚水やゴミを跳ね飛ばしたり、自身がスリップしたりしないような動きをします。
このロボットにはカメラが搭載されており、直径200mmから300mmの下水管内に入り、1回の作業で200m程度の区間を点検する運用を想定して開発を続けているようです。
2022年現在は開発中ですが、2023年には600万円で販売が開始されるようです。
 

②球体型ドローン「ELIOS2」

2020年にはすでに、ブルーイノベーション株式会社と、株式会社エヌ・エス・シー・エンジニアリングは、球体型ドローン”ELIOS2”(スイス Flyability 社製)を使い、東京都下水道局が管理する墨田区内の下水道の点検を実施しています。
 
点検箇所は作業員が立ち入ることも代替技術もないために、竣工以来一度も点検が出来ないまま、長年の課題 となっている場所を含んでいました。
 
この点検では、安全な地上から作業員がドローンを操作し、施設内のクラックの有無や配線の位置・形状などを鮮明な映像を取得しました。飛行には電波を地下まで届けるため RANGE EXTENDER を使い、電波の到達距離を検証できました。また、この点検箇所は下水が常時流れるため安定飛行の障害となる風が発生し、湿度が高く、湯気も充満していてカメラの視界を 遮る環境でしたが、ELIOS2 の安定飛行性能や粉塵最適化ライトで、鮮明な映像を取得することが可能だったようです。
 
 
今回紹介した「SPD1」「ELIOS2」双方がカメラによる下水管内の状態をカメラで撮影するものです。
しかし、小さなロボットで狭い管内での操作が可能な「SPD1」と、広い管内を縦横無人に駆け回り点検を行う「ELIOS2」は使用用途が少しずつ異なると考えられます。
2つの機器を揃えるとなると、大きめの価格にはなりますが、人命の優先と事業の効率化という観点では、導入する価値は大いにありそうです。