高騰する費用、戦い方

円高、物価高に加えて、人件費の高騰に悩まされる建設業。買い手の金銭的体力が伸び悩む今、モノの価格が上がることで購入意欲が低下し売上を伸ばすことは困難です。
本記事では、近年の建設業が置かれる厳しい状況を具体的に示したうえで、今行われている対応についてご紹介します。

もくじ 人件費の高騰 建設費用の高騰と金融 事業継承で再起を

 

人件費の高騰

「賃金構造基本統計調査」によると、2021年の「建設躯体工事従事者・その他の建設従業者」の賃金水準は、全産業の23%低い結果となりました。
中長期多岐な人材確保や育成といったの観点等から、賃金上昇の継続が不可欠となっており、今後も公共工事を中心に賃金の引き上げが続くと考えられています。
たとえば、2022年11月には監理技術者等の専任を要する請負代金額等の見直しや、技術検定制度の見直しを行う「建設業法施行令の一部を改正する政令」が、閣議決定されました。
請負代金の見直しは令和5年1月1日から始まっており、具体的には、以下のように金額が変更されています。※()内は建築一式工事の場合
現行改正後
特定建設業の許可・監理技術者の配置・施工
 体制台帳の作成を要する下請代金額の下限
4000万円
(6000万円)
4500万円
(7000万円)
主任技術者及び監理技術者の専任を要する
 請負代金額の下限
3500万円
(7000万円)
4000万円
(8000万円)
特定専門工事の下請代金額の上限3500万円4000万円
全体が500万円ずつ上昇するため、人件費の高騰だけでなく、資材費の高騰への対応も一部可能であると考えられます。
ただし、建設キャリアアップシステムの活用によって、可視化された労働時間や能力値に合わせた人件費の設定をする流れがある以上、これまでのように労働者を見えない所で酷使することはできなくなっています。
また、2024年には時間外労働の上限の規制や月60時間超の時間外割増賃金率引上げなどが義務化される働き方改革が実施されます。
 
これまで、労働者の長時間労働や比較的安い人件費で工数を賄ってきた企業は、体制の変革を求められます。安価に労働力を使用していた企業は今度は立ち行かなくなるでしょう。
 

建設費用の高騰と金融

22年は国際情勢や円安などの影響で物価高が続き、仕入れ価格の高騰を販売価格に転嫁できないことで生じる「物価高倒産」が増加しました。
多くの建材会社が10%~30%程度の値上げをすでにしています。
しかし、それを建設会社が価格に乗せるのにはかなりの時間がかかる上に、比較的に「安い」が当たり前になりつつあるこの社会では一般顧客に対する値上げはかなりの痛手になります。
材料費の値上げに耐えられない会社は国内でどんどん倒産しています。
帝国データバンクは2022年12月、物価高による倒産件数が58件で、直近の11月まで5カ月連続で月間最多を更新したと発表しています。
2022年10月までは運輸・通信業が倒産件数の1位でしたが、12月には建設業がトップになりました。
昨年度、建設業の倒産件数が少なかった理由としては、国が新型コロナウイルスの感染拡大への対策として実施した中小企業などに対する金融支援が考えられます。
しかし、感染拡大の終わりが見えないなかで、民間金融機関は2021年3月末に、政府系は2022年9月末に、融資を終了しています。
その結果、建設業はそれ自体だけでなく、主要な顧客となる飲食業や宿泊業の資金繰り悪化による工事発注の縮小、延期・中止の影響で痛手を受けました。
 

事業継承とIT導入で再起を

倒産件数が増える一方、M&Aを通じた人員確保に乗り出し、柔軟な人員配置を目指す企業や、ITを導入することでコスト削減を目指す企業も現れ始めました。
M&A助言のレコフ(東京・千代田)の調査によると、売り手と買い手の少なくとも一方が建設業界の会社である国内のM&A件数は、10年連続で前年比増を達成しています。
これには、国による事業承継の間接的な支援も成約増を後押ししていると考えられます。たとえば、20年10月の法改正で、事前申請で認可を得れば譲渡企業の建設業許可を引き継げるようになり、役員就任の要件も緩和しています。
体力がある建設会社はM&Aをすることで人材確保や生産性向上にむけて動き出しています。https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/ncr/18/00178/122300041/
 
同時に、ITの導入をすることで人件費を削減し、物価高に対抗する企業も増えています。サービス自体も年々増加しており、選択肢もふえてきました。
 
建設関係の会社はこれからも苦境に立たされるでしょう。しかし、新たな方策を取ることで、今後の物価高や人件費高騰に対抗し、生き残れるかもしれません。
 
 
 
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