点群データのオープン化と活用促進

2021年7月に起きた静岡県熱海市の土石流災害で、発生原因の「盛土」の存在が、災害発生からわずか数時間で特定されていたことをご存知でしょうか。
 
このような迅速な状況把握を可能にしたのは、静岡県が地形の3次元点群データを蓄積してきたことと、そのデータを誰でも利用できるようにオープンデータとして公開していたことだったと言われています。
 
 
静岡県の事例から、3次元点群データの活用はプロセス効率化の可能性を大きく秘めていることが分かります。今回の記事では、この3次元点群データの活用と公開について、インフラ・構造物の維持管理の効率化の観点から紹介します。
 
 
目次
1. 点群データとは何か?どう取得されるの?
2. 効率的な保守管理への活用事例
3. データのオープン化が技術革新を促進
 

1. 点群データとは何か?どう取得されるの?

 
まずは点群データについておさらいしましょう。点群データは、3次元空間上の”点の集合”を表現するデータ形式です。センサーなどの測定機器によって、物体表面の形状や位置、色などの情報を取得して作成されます。
 
点群データ取得方法の中でよく使用されるのが、MMS(Mobile Mapping System: モービルマッピングシステム)です。MMSは、衛星測位システム、3次元レーザースキャナ、カメラなどの機器を搭載した車両によるデータ計測システムです。対象物の表面から反射した光を受信して、その位置情報を取得します。
 
画像引用:国土交通省|MMS(モービルマッピングシステム)
画像引用:国土交通省|MMS(モービルマッピングシステム)
 
MMSは、
①複数の機器を使用することで高精度なデータ取得が可能 ②走行しながら計測するため大量の点群データの高速取得が可能
という特徴をもつことから、国道のような大規模な物体の計測に適しています。
 

2. 効率的な保守管理への活用事例

 
点群データを活用することで、建築物や道路の保守・管理を効率化するシステムも登場しています。
 
そのうちの一つが、首都高新技術、朝日航洋、エリジオンの3社により共同開発されたInfraDoctor®(インフラドクター)です。道路や鉄道などのインフラ維持管理の効率化を目的とし、2017年から首都高により運用されています。
 
 
インフラドクターには、寸法計測や図面作成を現場に行かずに自動で行う機能が搭載されています。また、舗装劣化を定量的に測定し、補修に必要な打換え面積・費用の算出までを自動で行う機能も搭載されています。これらの機能は全て、3次元点群データとカメラ画像を活用することで実現されています。
 
このように、3次元点群データを活用することで、労力を抑えてインフラ・構造物の補修・維持を行う技術が登場しています。
 
 

3. データのオープン化が技術革新を促進

 
点群データを活用した新たな技術を開発するためには、既に蓄積されているデータを誰でも自由に閲覧・使用できることが必要です。
 
そこで国土交通省は、直轄国道車線の三次元点群データ提供を2022年8月から開始しました。
 
国土交通省では道路管理の効率化を図るために、2018年からMMSによる三次元点群データを収集してきました。これらの三次元点群データの一般公開により、民間企業による柔軟・活発なアプリケーション開発の促進が期待されています。
 
なお販売単価は5,100円/kmとなっており、現在は2020年までに処理が完了した約9,000kmのデータのみが提供されていますが、今後も提供データは拡大予定とのことです。
 
 
最後に
現在までも、プロセスの効率化のために活用されている3次元点群データ。国土交通省によるデータのオープン化で、民間企業がアクセスできる蓄積データがさらに広がりました。今後、本記事で紹介したようなシステムに次ぐ、新たな技術の開発がさらに活発になっていくと予想されます。