外国人労働者問題が問題になるのはなぜ?ー日本の社会構造上の問題点ー

外国人労働者のなかでも、近年急増しているのは「技能実習生」です。
しかし近年、実習生が適切に雇用されていなかったり、実習生が失踪したりと、問題が続いています。2022年からは、技能実習制度の改革に向けて、古川法相を中心に議論が進められています。
ここまで問題になる技能実習制度。
外国人労働者をめぐる問題点とその原因についてご紹介します。
 
 
もくじ
外国人労働者(技能実習)の失踪
技能実習生が問題になる社会的背景
さいごに
 

外国人労働者(技能実習)の失踪

出入国在留管理庁の調査によれば、令和3年度における技能実習生の失踪は7,167人に上ったそうです。
 
国籍別ではベトナム人が約66%と、最も高い水準となっています。平成26年度の調査では826人と、当時からかなり多かったのですが、毎年約1000人程ずつ失踪者は増え、令和元年には過去最多の6,105人の失踪者となりました。
自治体で見ると、失踪者が最も多いのは愛知県(572人)、次いで大阪府(454人)、茨城県(417人)となっています。上記の3つの自治体は実習生の受け入れ者数が多いものの、同時に失踪者数の割合も高くなっています。
 
建設業に注目してみましょう。令和3年の調査では、技能実習生の失踪者の2人に1人(約54%)が建設関係者であることが明らかになっています。
「技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~、国籍別)「技能実習生の失踪者数(平成30年~、職種別)」「技能実習生の失踪者数(平成30年~、都道府県別)」)
 
この原因として考えられるのは、建設業における技能実習生の労働環境です。日本語が拙く、仕事も始めて、という外国人実習生に対して適切な対応を取れている受け入れ企業は多くないと考えられます。
 
また、外国人労働者を安い労働力として酷使している事例も多数上がっています。
厚生労働省の調査では、2021年、全国の労働局や労働基準監督署が労働基準関係法令違反の疑いで監督指導をした建設関係の事業場は1528でした。
そのうち実際に法令違反があった事業場は1228です。主な内容は、割増賃金支払い違反(403事業場)、安全基準違反(299事業場)、賃金支払い違反(295事業場)でした。
なお、労総局や労働基準監督署が認知していないレベルで行われている法令違反もあると考えると、現実にはもっと多くの法令違反事業者があると考えられます。
 
特に、今年(2022年)2月には、建設会社の日本人労働者によるベトナム人実習生への長期的な暴力が大きな話題になりました。
 
「実習先での暴行は、来日から1カ月ほど経ったころ、始まりました。自分は日本語が下手で、同僚の言っていることが分からない。仕事のことについても、ちゃんと教えてもらえませんでした。最初は、ほうきで腰をたたいたり、電話で頭を殴ったりされましたが、その後、どんどん暴力が激しくなっていきました。建設現場の騒音で同僚の指示が聞き取れず、聞き返すと、同僚に安全靴で左胸を蹴られ、ろっ骨が3本折れました。いくら「痛い」と言っても、やめてくれることはありませんでした。同僚たちは、私の反応を楽しみ、ストレス発散のターゲットにしていたんだと思います。」
(2022年2月3日, 朝日新聞デジタル「「ろっ骨3本折られた」ベトナム人技能実習生が訴えた暴行被害とは 取材で詳細語る」https://globe.asahi.com/article/14535788 より引用)
 

技能実習生が問題になる社会的背景

なぜ技能実習生は日本を支える労働者としてではなく、日本の「外」にある外国人労働者のまま、権利が侵害され続けているのでしょうか。
 
外国人労働者を長年研究している東京都立大学教授の丹野 清人氏の論を参考に分析してみます。
まず、日本はものづくりの構造として元請けと下請けに分かれているという特徴があります。ものづくりをするときは、繁忙期と閑散期があります。そうなると正社員を雇い続けるには勿体ない。そこで、下請け企業は閑散期を基準に正社員を雇用し、元請けからの要望にしたがって短期労働者を雇い、必要な分を生産します。そして繁忙期が終わったら正社員以外は会社を離れてもらう。
これが基本的な動きです。
 
日本は短期労働者を工場の生産性をあげるためのピースとして捉えている節があります。そのため、労働者自身の成長は視野に入れられていません。
 
丹野氏によれば、オランダ等では短期労働者を雇っても、労働者への技術習得支援や社会保障の加入など、解雇された後も労働者の権利が守られるよう、制度が整えられており、それが日本との大きな違いだと言えます。
 
ゆえに、実は非正規雇用の日本人と外国人が同じ職場に就労していて誰かを解雇せねばならないとき, 外国人が意図的に選択されている状況はあまりなく、むしろ, 日本人の方が解雇されているようです。 これは同じ場所で就労している者に解雇の優先順位をつけなければならないときに,外国人労働者の 生産性とコストの方が、日本人労働者よりも優位であると考えられているからでしょう。
 
そして, 生産性とコストが問題になるからこそ、 外国人労働者の間では規定された賃金や日本語能力が解雇やいじめ、不当な雇用の原因になるのです。
 
社会構造をすぐに変えることはできませんが、今後は外国人労働者への認識を改める必要があるでしょう。
 

さいごに

彼らは日本で働くために、家族を国において、時には100万円以上の借金をします。そこまでの覚悟を持って日本に来てもらっている以上、現在国内にはびこる人権を侵害するような問題は解決されるべきです。
感染症の影響も少しずつ落ち着いてきた現在、これから来日する技能実習生が心地よく働ける制度や土壌を作っていけることを願うばかりです。
 
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