【2023年義務化?】建設キャリアアップシステムの利用状況と今後の展開

建設業の人手不足。 この問題の要因の一つとして挙げられているのは人事評価の不透明さです。
 
建設業において、現場をとりまとめる事業者と技能者が毎回かならず一致しているとは限らず、そのため人事評価は定量的に行われていませんでした。
 
この定量化されていない人事評価によって、技能者にとっては、これまで培った経験やキャリアが明確化されないこと、事業者にとっては、新たにほしい人材の選択と確保に困難が発生する、といった問題がありました。
そこで国交省と建設業団体で連携して普及・利用促進に取り組んでいるのが「建設キャリアアップシステム」です。
 

利用状況

建設キャリアアップシステムの登録者の累計は右肩上がりで増加しています。
(国土交通省https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_data_tourokusu.pdfより引用)
(国土交通省https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/ccus_data_tourokusu.pdfより引用)
 
技能者が建設キャリアアップシステムに登録する理由としては、就業履歴の蓄積のために早めに登録したい、あるいは、入る予定の現場を持つ事業者が建設キャリアアップシステムの登録を代行してくれるから、等があります。
事業者のなかには建設キャリアアップシステムに登録している技能者のみを採用する、という声明を出しているところもあるほど、その存在感は業界で高まっているようです。
また、事業者が建設キャリアアップシステムを登録することによって得られる利点も存在します。 制度面でいうと、技能実習生の雇用が大きな話題といえます。技能実習の受け入れ企業になるためには建設キャリアアップシステムに登録されていることが要件です。
(建設業の技能実習生についてはこちらから)
 
さらに、公共事業を請け負う際に必ず受けておかなければならない「経営事項審査」においては、建設キャリアアップシステムを導入していることで加点を受けることができ、「総合評定値」のアップにもつながります!
(加点内容については国土交通省のウェブサイトからご確認頂けます。「経営事項審査での加点措置」をご覧ください。)
 
しかしながら、技能者、事業者ともに2022年に入ってから登録者の伸びは落ち着いています。
技能者は全体の30%(92.8万/309.0万人)、事業者は全体の38%(18.0万/47.2万社)の登録があった時点で登録者の伸びが落ち着いた理由は何でしょうか。
 

現場からの声

建設キャリアアップシステムは、このシステムそのものへの不満を漏らすひとはあまり見かけません。
何よりも問題となるのは、その登録と運用の煩雑さです。
 
現場からは以下のような声が聞こえます。
「申請書類が複雑すぎて分からない。」
「(事業者)技能者の登録も代行でやっているけれど、人数も多いし面倒。最近は慣れてきたけれど」
「デジタルスキルがある人がいないと運用できない」
「お金がかかるのが不服」
 
特に多く見られた不満としては、申請書と価格についてです。
 
申請書類の説明が分かりづらく、審査に1か月もかかり、登録料の支払いも面倒とのことでした(これに関しては行政書士の方に外注することも可能なようです。お困りの方は外注も視野に入れてみてはいかがでしょうか?)。
価格については主に事業者の方からの不満が多く出ていました。そもそもほとんど必須にされているような流れで、導入しなくてはいけないから導入したのに、導入コストも運用コストも取られるのが納得いかないとのことです。
 
たしかに建設キャリアアップシステムは有料なので、それなりの値段がかかります。管理者IDの支払いも毎年必要で、1つのIDで11,400(税込み)かかります。さらに、技能者の登録料は以下で、5年ごとに更新が必要です。
 
また、現場使用料も1現場で1人あたり10円(税込み)支払う必要があります。
さらに、キャリアアップシステムの肝とも言えるカードタッチに必要なカードリーダーの用意も現場の数だけ必要です。レンタルでも1つ数万円~ですから、多くの現場を持つ事業者はかなりの額の初期投資が必要になります。
 
これらが登録者数が落ち着いてしまった理由かもしれません。
 
まだまだ現場からの理解や、そのメリットが登録等に関わる工数や価格に見合っているとは言えないのかもしれません。
 

義務化の流れ

建設キャリアアップシステムの登録は、義務ではありません。しかしながら、2020年時点ですでに国土交通省から、『令和5年度からの、「あらゆる工事でのCCUS完全実施」に向けた具体策等からなる、「建設キャリアアップシステム普及・活用に向 けた官民施策パッケージ」をとりまとめ、建設業者団体に対して積極的な制度の活用等を要請する』と通知を出されています。
 
これはトップダウンによる完全な義務化、というよりも、民間/公共問わず建設キャリアアップシステム活用への完全以降の方針を実現するために、建設キャリアアップシステムを導入した元請け業者は公共事業の入札や契約において優遇されたり、元請けから下請けへの啓蒙活動を要請する、という柔らかな動きとも取れます。
 
柔らかな動き、と言いつつ、建設キャリアアップシステムを登録しなければ外国人材の活用、公共事業の落札や技能者の長期雇用が困難になるなど、導入しないことによるデメリットは今後ますます大きくなっていくでしょう。
 
 
(参考)
日経XTECH 「CCUSを全現場に導入すれば経審で加点、国交省が改正案」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00142/01252/
国土交通省「【CCUSポータル】 公共工事におけるインセンティブ」
国土交通省「建設キャリアアップシステムの利用状況(2022年6月末)」
CCUS建設キャリアアップシステム
国土交通省「建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用促進等について」