建設業における労災保険と労災発生①

令和3年1月から12月にかけて、建設業従事者の死者は288人と、全体(867人)の約33.2%を建設業が占める結果となりました。令和2年と比較すると、+30人(11.6%増)です。
労働災害を減少させるために国や事業者、労働者等が重点的に取り組む事項を定めた中期計画(平成30年度~令和4年度)である「第13次労働災害防止計画」(以下「13次防」という。)の重点業種に指定されています。(厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25944.htmlより)
危険の伴う建設現場。
不名誉なことですが、あらゆる業種のなかでも、もっとも労災保険が活用されている業界といっても良いかもしれません。
そんな建設業における労働災害について、2回に分けて紹介します。 今回は建設業をとりまく特殊で複雑な労災保険についてです。
 
目次
労災保険とは?
建設業における労災保険
一人親方の労災保険

労災保険とは?

みなさんは「労働災害保険」が誰に対して、どのように給付されるものかをしっかり理解できているでしょうか?
  • 労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。
  • 労災保険は、原則として 一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。なお、労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、 労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません
  • 労災年金給付等の算定の基礎となる給付基礎日額については、労災保険法第8条の3等の規定に基づき、毎月勤労統計の平均給与額の変動等に応じて、毎年自動的に変更されています。
つまり、給与をもらって働くすべての労働者が、仕事中や通勤中に受けたけが、病気などに対してお金が支払われるシステムです。
「労働者」が対象なので、社長や役員は対象ではありません。
じゃあ一人親方はどうなるの?と不安になるかもしれませんが、特別措置が講じられているので、ご安心ください。
 

建設業における労災保険

一般的な労災保険は、労働者が所属する会社によって補償されます。
保険料についても、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下、徴収法)」第11条において、「事業主がその事業に使用するすべての労働者に支払う賃金の総額に労災保険率を乗じて算定する」ことを原則としています。
しかし、元請け/下請けという立場が発生したり、色々な現場で働く技能者にとって、この保険料算出方法はあまり合理的とは言えません。
そのため、建設業においては労災保険の適用範囲と保険料の算出方法が一般とは異なります。
 

補償の責任

まず、労災保険の保証の責任があるのは、元請け事業者になります。
現場で作業に従事する技能者が傷病等を負ったら元請け業者、下請け業者は関係なく、元請け業者の労災から補償されます。
ただし、これは現場作業をしている労働者にのみの適用です。
下請け業者の事務や営業、役員等は対象となりません。
 

建設業労災保険の算定方法

一定の職場で仕事をするわけではなく、工事単位で加入する建設業において、賃金総額は計算しづらく、一般の保険料算出方法は困難です。そのため、特例として認められた方法によって計算されます。
一つの工事における計算方法は、徴収法施行規則第12条と13条に則り、「請負金額×労務費率×保険料率」となります。
しかし一つひとつの事業に対して、毎回労災保険の手続きをするのは面倒です。
そのため、「一括有期事業」に該当する事業に限り、同一事業とみなして届け出をすることができます。
一括有期事業の対象となるのは、請負金額が1億9000万未満且つ、概算保険料額160万円未満の事業です。
この場合は、一括にまとめられた事業の開始および終了の手続きと、6~7月ごろの確定保険料および概算保険料の申告のみで良くなります。
一括有期事業にならない事業は単独有期事業と呼ばれ、工事ごとに、工事現場の所在地を管轄する労働基準監督署において保険関係を成立させ、工事終了の都度、保険料を清算しなければなりません。

一人親方の労災保険

上記では「労働者」の保険についてご紹介しました。
ここで問題になるのが一人親方です。労働者でもあり、社長でもある一人親方はどのような扱いになるのでしょうか。
一人親方は、労働基準法上の労働者ではない者で、労災保険により保護するにふさわしい者に対する、労災保険の「特別加入」が適用されます。
特別加入ができるのは以下の4種類です(労災保険法第33条による)。
 
① 中小事業主及びその事業に従事する労働者以外の者(役員等)
② 労働者を使用しないで次の事業を行う一人親方その他の自営業者及びその者が行う事業に従事する労働者以外の者(家族従事者等)
③ 特定作業従事者
④ 海外派遣者
 
なお、一人親方が労働者を雇った場合は一人親方では無くなってしまうので、①中小事業主及びその事業に従事する労働者以外の者(役員等) への申請を、労働基準監督署または労働局まで届け出る必要があります。
おわりに
今回は建設業の労災保険についてご紹介しました!次回は建設業で多い労災について、その歴史と現状について分析します。
 
 
参考